元警察本部警察官が教えます!

元警察本部警察官の管理人が警察についてあれこれ書いています。他にも法律、裁判、福祉等についても少々!

「警察が捜査しない。動かない」は警察の怠慢?何故起きる?優先順位の基準は?

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1、警察と被害者の認識のズレ

 よく

「被害届を出しても警察は捜査しない」

と耳にします。

 

 まずは、この部分に被害者警察とに認識のズレが生じています。

 その説明からします。

 

 被害者は、犯人を捕まえるために具体的に聞き込み等をして

「捜査を始めた」

と認識する傾向にあります。

 

 一方警察や法的には違います。

 被害届の受理、それに伴って行われている実況見分

 これも捜査です。

 

 実況見分は、犯罪の状況や被害の状況を明らかにする捜査です。

 被害届と実況見分は基本的にセットで行うため、被害届を受理したら実況見分はほぼ100%作成しています。

 つまり、警察や法的には、どの事件でも捜査しているんですね。

 

 

2、警察が貴方の事件で動かない理由

「警察や法的に、実況見分まででも捜査をしている」

と言われても、被害者としては納得できませんよね。

 

 犯人を捕まえて欲しいから警察に訴えかけているわけですから。

 捜査と言う言葉の認識の違いやズレなんてどうでも良いわけですからね。

 

 そこで、

「なんで私の届出した事件は中々実況見分以上の捜査をしてくれないの?」

と考えると思います。

 

 その理由として考えられるのは、警察は捜査する事件に優先順位を付けているからだと思います。

 

 これはネットの噂だけではなく、事実です

 大半の被害届と実況見分は書庫に保管されており、それ以降の捜査はされていません。

 

 

3、何で優先順位を付けているの?

 某大捜査線で

「事件に大きいも、小さいもない」

のような事を主人公が言っています。

 

 それが理想ではありますが、それはどうしても不可能なので、優先順位を付けざるを得ないんです。

 

 その理由をザックリとしてはいますが、数字で示します。

◎ 警察が認知している刑法犯罪年約100万件です。

 

◎ 犯罪を捜査する刑事はどの県警でも中堅警察署で概ね30人前後のようですので、これを平均とします。

 

◎ 日本全国に警察署1163署ありますので、全国の刑事約35000人とします。

 

◎ 一人当たりの刑事が年間受け持つ事件数は約28件

 

◎ 事件は一人逮捕するとその後ほとんど20日間は要します。

 そのため、全ての事件を捕まえると560日必要になります。

 

※ これには犯人を捕まえるまでの捜査日数は含まれていません。

 

 犯人を捕まえるまでの捜査日数を抜きにしても、全ての刑事が一年(365日)を超えてしまうほどの事件を抱えていることになります。

 

 実際には、事件の全てを刑事課だけで捜査するわけではありませんし、全てが逮捕するわけでもありません。

 逮捕した全てで20日掛かるわけでも有りません。

 

 しかし、それを考慮したとしても、犯人を捕まえるまでの捜査の方が時間は圧倒的に掛かりますので、少なく見積もっても毎年入ってくる事件を不眠不休で捜査し続けてもその年だけで解決し切るのは不可能な計算です。

 

 刑事は捜査以外に、当直もありますし、そもそも不眠不休で働けるロボットでもありません。

 しかもこの数値はあくまでも、刑法犯罪の認知件数であって、被害届を出されていないだけの事件とか、刑法犯罪以外の犯罪もあります。

 

 被害届が出されていない事件は警察に届け出をしていない事件とも限らず、相談で被害者が納得している事件もあります。

 警察への相談件数は年間約150万件です。

 

 どう計算しても事件を捜査し切るのは不可能ですよね。

 だから優先順位は付けざるを得ないんです。

 

 

4、優先順位の基準は?

 優先順位を付けざるを得ない状況にあることは理解できましたか?

 

 そこで気になるのが、

【優先順位の付け方】

ですよね。

 

 ここにはある一定の基準が存在します。

 刑事の独断で好き勝手判断しているわけではありません。

 

 刑事・警察は公務員です。

 公務員は公益をより大きく守る選択をしなければなりません。

 

 時として、それは自分の家族より仕事を優先しなければならないほどの義務であり、判断基準です。

 

 それほどまでに厳格に科せられている判断基準が、この

【公益優先】

です。

 

 ここまで言えば勘の良い貴方は分かりますね?

 優先的に捜査される事件は、

【刑罰が重い犯罪から】

です。

 

 つまり、重罪から優先的に捜査しなければならないと言うことです。

 

 例えば重罪(放火、殺人、強盗、強姦、強制わいせつ、略取誘拐)等と自転車盗。

「どちらを放置した方が社会的に市民への不安は大きいか?」

と言うことです。

 

 某大捜査線のように

「事件に大きいも、小さいもない」

を判断基準にしてしまうと、連続殺人事件の捜査よりも自転車盗の捜査を優先してしまうこともあり得ると言うことです。

 

 交番がそれなら業務の担当領域が違いますから、ある程度有り得ますが、刑事がそれをやっていたら社会は不安で崩壊し得ます。

 

 厳密には判断基準は刑罰だけではありません。

 先ほども言ったように、重要なのは公益を守ると言うことです。

 そのため、単発の重罪捜査よりも、連続する他の事件を優先することは有り得ます。

 

 そこに働いている基準はあくまでも、

【公益をより多く守る】

です。

 

 警察の判断基準は、目の前にいる被害者のためではありません。

 

 そのため、貴方の被害について警察が積極的に捜査していないと感じた場合、その警察署ではもっと重大な事件を抱えていると思って下さい。

 

 重要な部分なのでもう一度言います。

 警察は貴方被害者個人のために捜査するのではなく、公益のために捜査するんです。

 

 貴方の受けた犯罪が、社会にどれだけ影響を与える事件かで見ているんです。

 

 

5、最後に

 ここで私が言っていることは全てにおいてではありません。

 

 あくまでも

「基本的には」

と言うことです。

 

 警察官も人間ですので、目の前の被害者にがないわけではありません。

 しかし、それ以上に公益を守らなければならないんです。

 これって人としてかなりキツイ判断です。

 

 しかも、それで世間からは

「捜査しない」

とか

「事件を選んでいる」

「小さい事件は実績にならないから捜査しない」

のような無知や勘違いによる誹謗中傷を受けます。

 

 警察はそう言われることも理解しています。

 理解した上で、覚悟をし、警察官として科せられている義務に徹し、そのような判断をしているわけです。

 

 貴方の事件を軽く見ているとか、ましてや「面倒」なんて理由で捜査しないわけではありません。

 

 ・・・とキッパリと言い切った直後に何ですが、中には「面倒」と捜査しない警察官もいるんですよね。

 

 全国28万人規模の大組織ですから、色々いますよね。

 

 

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