「正当防衛になる?ならない?」考える上での簡単な目安・基準。
1、違法性阻却事由
正当防衛は違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)の一つです。
違法性阻却事由の説明はこちらをお読みください。
<作成中>
簡単に分かりやすく言うと、
【犯罪行為をしても、罪に問われない事柄】
のことですね。
2、正当防衛とは?
<正当防衛>
正当防衛は、犯罪行為をしても、罪に問われない違法性阻却事由の一つなので、正当防衛に該当すれば罪には問われません。
では正当防衛とは具体的にどんな行為を指すのでしょうか?
【今まさに、自分や周囲の人間に対して差し迫っている犯罪行為に対してやむを得ず行う行為(≒犯罪)のこと】
<例>
今まさに差し迫った犯罪行為ですから、例えば、
目の前でナイフを持った男が貴方を刺そうと向ってきている状態。
等を指します。
これに対して、殴り倒して制止するような行為が正当防衛です。
本来殴る行為は犯罪です。
しかし、ナイフで刺されそうな差し迫った状態を回避するため仕方がない殴りです。
そのため、
「それは仕方がないよね」
と言うことで、正当防衛となり、殴ったことは罪に問われない。
このようなモノを正当防衛と呼びます。
3、正当防衛になる?ならない?の目安・基準
ここであげるのはあくまでも簡単な目安です。
何でもかんでも一つの基準で判断できるほど法判断は簡単で単純なものではありません。
それを前もってご理解下さい。
その上で、ある程度分かりやすく目安となる項目をご紹介します。
<他に手段がない>
勘違いしている人の多くはこの部分を見落としています。
厳密には
【他に手段がない】
と言う条件ではありませんが、大差はないので分かりやすくするためにこう言います。
先程のナイフを持った男の例を使います。
この例で、殴り倒す以外の選択肢がある場合は殴るのではなく、その別の方法を取らないといけないと言うことです。
例えば、向かって来てはいるけれど、まだ距離があり、逃げることが可能な場合。
その場合は、殴り倒すと正当防衛にはなりません。
逃げると言う別の手段があるからですね。
正当防衛は犯罪行為を推奨する制度ではありませんので。
この部分を見落としている人は
「今まさにナイフで刺されそうで、何とか避けて殴り倒しました。その後犯人をボコボコにしても正当防衛ですよね?」
と言う考え方をよくします。
これは正当防衛でも、過剰防衛ですらなく、単なる傷害罪と言う犯罪です。
刺されないために殴り倒すところまでは正当防衛です。
しかし、その後は感情に任せて殴っているだけで、刺されないためにする殴りではありません。
そのため、その後の行為は単なる犯罪となります。
そのまま制圧して警察に突き出すとか、伸びている間に逃げる等、他に手段は幾らでもある状態ですからね。
<罪状の軽重>
これも一概には言えないので、あくまでも一つの目安程度で捉えて下さい。
【自分が受けようとしている犯罪被害の重さ】
これと、
【正当防衛として犯人にやろうとしている犯罪行為の重さ】
これらを見比べて、自分が受けようとしている犯罪の重さよりも重い犯罪行為で防衛してはいけません。
つまり
【自分が受けそうな犯罪】 > 【正当防衛として行う犯罪】
このようにならないといけないわけですね。
先程のナイフの例で見てみましょう。
ナイフで刺される行為は殺人罪です。
殺人罪の刑は
【死刑又は無期若しくは5年以上の懲役】
一方殴り倒す行為は暴行罪又は傷害罪です。
暴行罪の刑は
【2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金 ~以下省略~】
傷害罪の刑は
【15年以下の懲役又は50万円以下の罰金】
<罪の重さを比べる方法>
この時点で一見傷害罪の方が殺人罪よりも重い犯罪に見る事も出来ます。
殺人罪は5年以上の懲役で、傷害罪は15年以下の懲役と言う部分がありますからね。
そのため、罪の重さを見比べる方法はキチンとあります。
基本的に罪の重さを見比べる時には、一番重い部分で比べます。
つまり、
傷害罪は15年以下の懲役。
殺人罪は死刑や無期懲役。
有期刑よりも無期懲役の方が重いです。
そして、懲役刑よりも死刑の方が重いです。
そのため、今回のケースだと
死刑 > 無期懲役 > 15年以下の懲役 > 2年以下の懲役 > 罰金刑
となります。
罪状に入れ替えると
殺人罪 > 殺人罪 > 傷害罪 > 暴行罪 > 傷害罪&暴行罪
そのため、殺人罪が一番重い犯罪ですので、殺人罪を回避するために、相手を怪我させるくらいの殴りは正当防衛になり得ると言うことです。
<過剰防衛>
先の例で問題になるのが、自分が受けそうな犯罪よりも、重い犯罪行為で犯人にやり返すことです。
つまり、
今まさに殴られそうな状態を回避するために、犯人をナイフで刺す行為。
等ですね。
正当防衛となるケースでは、ナイフで刺されそうな状況を回避するために殴るでした。
今度は逆で、殴られそうな状況を回避するために、ナイフで刺すです。
ナイフで刺す殺人罪の方が重い犯罪ですので、これでは正当防衛は成立しません。
このように、犯人よりも重い犯罪行為で回避すると
【過剰防衛】
となります。
防衛としてはやり過ぎと言うことで、罪に問われます。
違法性阻却事由ではなくなります。
ただし、この場合でも
「やりすぎです」
と言うだけで、減刑はされ得ます。
つまり、
「やり過ぎたけど、咄嗟のことで仕方がない部分もあるよね」
と言うことです。
先に少し述べた、刺されるのを回避した後に犯人をボコボコに殴る行為は、この過剰防衛にすらならないわけです。
仕方がない部分が一切ないためです。
4、最後に
あくまでも目安です。
本当にそんなに単純な話ではありません。
過去には、強姦被害を回避するため、被害者の女性が犯人の持っていたナイフを奪い、犯人の太ももを刺して強姦被害を回避。
その後犯人は大量出血で死亡した事件がありました。
女性の力では他に手段はなく、助けも来ない場所。
既に覆いかぶさられ、今まさに被害に遭ってしまう切迫した状況。
刺した場所も太ももなので、通念上死亡するとは考えにくい部位を刺している。
当然正当防衛になるかと思いきや、女性は過剰防衛で起訴されました。
探しても判決が見つからないため、ちょっとその後どうなったのか私は知らないのですが、これは今回紹介した目安や基準だけで判断できない事例ですよね。
このように法律は覚えることよりも、判断することが難しいんですね。
そんな法律に興味があればこちらの記事を併せてお読みください。
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