元警察本部警察官が教えます!

元警察本部警察官の管理人が警察についてあれこれ書いています。他にも法律、裁判、福祉等についても少々!

パトカーが追跡中の違反車両が事故を起こしたらどうなる? 事故を起こさないため、警察の対策は?

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1、パトカーの違反車両追跡

 パトカーは逃走する違反者や犯罪者を追跡することがあります。

 相手が違反を繰り返してでも逃走する場合には緊急走行で追跡を行います。

 

 その際、赤色灯を回し、サイレンを鳴らし、拡声マイクで停止を求め続けなければなりません。

 

「追われるから逃げる」

と言う違反者もいるように、追跡を始めなければならないような被疑者は最初から必死に逃げます。

 

 

 

2、追跡中の事故

 パトカーが緊急走行をしてでも追跡しなければならない違反者ですので、当然ルールを破りながら逃げます。

 

 信号無視、一時停止無視等は当たり前です。

 

 これらのルールは事故を起こさないようにするためのルールですので、そのルールを無視して逃走すると言うことは、かなり高い確率で事故を起こします。

 

 このような事故に関して、逃走している違反者が怪我をしようと、車両が大破しようと自業自得です。

 しかし、自業自得ではないのが事故を貰った人です。

 

「逃走中の信号無視をしてきた違反車両にぶつけられた。」

「私が横断歩道を渡っている最中、逃走中の違反車両に轢かれた。」

等の場合です。

 

 このような場合、巻き込まれた人はどうしたら良いのでしょうか?

 

 

 

3、状況による

 結論としては、

【状況による】

としか言えません。

 

 それだけでは困ってしまうと思いますので、代表的なその【状況】ごとの取れる行動をご紹介します。

 

 

<パトカーが適切な追跡での事故>

 パトカーの追跡は適切な場合。

 事故に巻き込まれた貴方は、事故を起こしてきた違反者に対して損害賠償請求が行えます。

 

 ただし、損害賠償請求は民事裁判なので、貴方が弁護士を雇う等して裁判を起こさなければなりません。

 警察に言っても損害賠償請求は出来ません。

 

 

 それとは別に、ひき逃げですので、刑事罰を与えることも可能です。

 刑事罰を与えるためには警察に言えば、あとは警察が色々と指示して書類作成等をやってくれます。

 

 

<パトカーが違法な追跡での事故>

 緊急走行は赤信号での通過出来るとか、速度超過をして追跡出来るとか、違反行為をしても問題ないとのイメージがありますので、違法な追跡のイメージがし難いかと思います。

 

 しかし、実は緊急走行中のパトカーにもやってはいけない違反があります。

 それに違反しながら追跡をしていればそれは違法な追跡と言えます。

 

 緊急走行中にやってはいけない違反行為とは、代表的なこととしては

◎、一時不停止

◎、一方通行路の逆走

◎、速度超過

等々です。

 

 少し捕捉をすると、ここで言う速度超過違反と言うのは、一般車両の速度規制ではなく、緊急車両専用の速度規制のことを言っています。

 

 一般車両よりは遥かに高い上限ですが、緊急走行にも速度上限が設定されています。

 緊急走行だからと言って常にフルアクセルで何キロも出して良いわけではないんですね。

 

 そのような違法な追跡中に巻き込み事故を貰った場合。

 それは、

◎、違反者に損害賠償請求

◎、その警察官が所属している都道府県に対して損害賠償請求

が行えます。

 

 違反者ではなく、パトカーが事故を起こし、貴方が巻き込まれた場合は、後者の警察官が所属している都道府県に対しての損害賠償請求だけ行えます。

 

「そのパトカーに乗っている警察官を訴えたい!ふざけるな!」

と言う方も沢山いますが、このようなケースの場合、公務員個人を訴える事は不可能です。

 

 これは事故に巻き込まれた貴方を確実に守るための制度なのですが、その詳細はまた別の機会に。

 

 

 

 

4、適切な追跡中の事故で、違反者が逃げ切った場合

<違反者を訴える事はできない>

 先程の例示は違反者が捕まった場合の例です。

 しかし、違反者は逃走していますので、捕まえる事が出来ずにそのまま逃走されてしまうこともあります。

 

 その場合、事故に巻き込まれてしまった貴方はどうしたら良いでしょうか?

 民事裁判の損害賠償請求は相手が判明している時に訴える事が出来ます。

 

 しかし、完全に逃げられてしまうと相手が判明しませんので、訴える事が出来ません。

 

 

<警察を訴える事も出来ない>

 「元はと言えば警察が追跡していたせいなんだから、警察に損害賠償を請求する。」

と考える人もいるかと思いますが、それも出来ません。

 

 先程の例の時にも少し出た公務員を訴えて損害賠償を請求する方法。

 これを行うためには国家賠償訴訟を起こさなければなりません。

 しかし、国家賠償訴訟を起こすためには

 

公務員の【違法な】行為による損害の場合

 

と言う条件があるんです。

 

 今回はパトカーの追跡行為は適切ですので、警察に対して国家賠償訴訟は提起出来ません。

 

 そのため、多くの人は泣き寝入りをしがちです。

 しかし、実は方法があるんです。

 

 それは損害賠償ではなく補償を受けることです。

 

 

<政府保障事業>

 損害賠償と補償の違いは今回は省略しますが、受けた被害を補填してくれると言う点では同じです。

 

 ひき逃げにより、被疑者が見つからない場合。

 まさに今回の事例と同じですが、そのような場合には国が補償してくれる制度が存在します。

 

 自動的にではなく、請求をしないといけないので、その存在を知らないと泣き寝入りとなります。

 

 そして、この制度の申請窓口である保険会社の人ですら知らないほどマイナーな制度なので、泣き寝入りしてしまう人が多いんですね。

 

【申請窓口】

◎、保険会社の窓口

 委託窓口では扱っていません。

 保険会社の正規の事務所を訪問して下さい。

 

 この補償を受けるためなら、特に契約している、契約していない等は関係ありません。

 

 委託等ではない保険会社の窓口ならどの会社でも大丈夫です。

 

 

【補償内容】

◎、治療費

◎、怪我で仕事が出来ない間の給料

等々です。

 

 損害賠償とは違うので精神的ショック等は無理です。

 あくまでも実質的に損失した財的な補填と言うイメージですね。

 

 

【給付される時期】

 給付は、申請してから数ヶ月掛かります。

 掛かった経費等に対して支払われるモノですので、治療等が全部終わり、補償額が確定してからになりますので。

 

 損害賠償なら精神的な部分も考慮されますので、請求額は自由なため、確定していなくても請求可能ですので、少し違いますね。

 

 

【保険窓口の人が制度を知らない場合】

 私が申請書類を貰いに行ったときも、窓口の人が知らずに困りました。

 

 その場合は、そのような制度があるか保険会社で調べて、後日自宅に資料を送付してもらうと言う対応をしてもらいました。

 

 もちろん、キチンとその制度は存在しており、後日資料と申し込み用紙は送付されてきました。

 

 その時の話に興味があればこちらの記事も併せてお読みください。

 

www.policefuta.work

 

 

 国土交通省のページでも手続きや流れ等を紹介していますので、参考にして下さい。

www.mlit.go.jp

 

 

 

5、追跡中の事故を起こさないために警察が取っている対策

 事故を起こさないためのルールの違反者を捕まえるための追跡ですので、追跡行為から別の事故が発生してしまっては本末転倒です。

 

 そこで、警察も追跡時に事故を起こさないように対策はしています。

 私は10年以上前の1県での対策しか知りませんが、その県警での対策はとてもシンプル。

 

【基本的に緊急走行での追跡はしないこと】

でした。

 

 緊急走行をしてまでも追跡しなければならない状態と言うことは、それだけで別の二次被害、三次被害となる事故を起こすリスクが増大することを意味します。

 

 そのため、緊急走行をするなら追跡はしてはいけないと言うものです。

 

 全国共通でパトカーは緊急走行をする場合、必ず警察本部に無線で

「緊急走行を行います」

と報告をしなければなりません。

 

 しかし、その県警ではその際に警察本部より

「無理な追跡はせず、緊急走行を直ちに辞め、通常走行に移行せよ」

と命令が下ります。

 

 もちろん、これはあくまでも【基本的には】なので、相手が交通違反者ではなく殺人犯とか、人を拉致して逃走している車両等であれば停止命令は出ません。

 

 停止命令が出るのはあくまでも、交通違反者を追跡する場合の話です。

 そして、その県警ではその場での追跡ではなく、捜査に移行します。

 そのため、逃げ得にするつもりもありません。

 

 むしろその場で捕まった方が違反者にとっては気持ちの面で楽だと思いますので、追跡をしない県警の方がエグイと思います。

 

 

 

6、最後に

 この記事を一度読んだからと言って

「このケースの時にはこうするんだな!?」

と自分で判断できるくらい身になる人はほとんどいないと思います。

 

 しかし、せめて

【政府保障事業】

 このような制度が存在していると言うことだけでも是非覚えて下さい。

 

 

 それだけでも本記事を書いた意義があるのかなと思う次第です。

 

 

 

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