元警察本部警察官が教えます!

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警察の捜査で違法となる判決の説明。【長期撮影】

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1、捜査のために長期撮影は違法

 さいたま地裁で、警察の犯罪捜査に関して新たな指針となる判決が出ました。

【被告宅を7ヶ月半撮影は違法 放火など一部無罪に】

※ ヤフーニュースで、記事がなくなっているのでリンクは外しています、

 

 そのため簡単に説明をしますが、少し人間関係が分かり難いので勘違いしやすいかもしれません。

 情報源は複数ネットニュース記事を読んだだけの状態での説明になりますので、ご了承下さい。

 

 

2、登場人物

 渡辺被告・・・放火罪は無罪。

 男性A ・・・渡辺被告と共謀したと思われる。別件で逮捕状が出ている

 

 他にも共謀したと思われる男性Bもいますが、本件の判決には絡んでこないので、省略しています。

 

 なお、渡辺被告は容疑が掛かっていない時点では

【渡辺さん】

と表現します。

 

 常に【被告】とすると

「【=犯罪者】だから仕方がないでしょう。」

って印象を持ちやすいので、あえて使い分けます。

 

 

3、時系列順、事件の概要

 男性Aに放火とは別件で逮捕状が出ていた。

 

 男性Aの立ち回り先だと言うことで、警察は男性Aの事件の証拠を集めるために渡辺さんの自宅を7ヶ月半撮影した。

(この時点で渡辺被告には何の容疑もないので、【さん】としています)

 

 すると、その撮影期間中に渡辺さんが自宅にガソリンを持ち帰る等の行為が撮影された。

 その撮影期間中に放火事件が発生。

 

 そこに撮影されていた内容から放火容疑があるとして渡辺さんを放火の容疑で逮捕・起訴した。

 

※ つまり、男性Aの別件の事件の証拠を収集中に、放火容疑の証拠も偶然撮影されたような状態です。

 

 

4、判決

 裁判所は、渡辺被告の放火容疑については違法な捜査による証拠だとして無罪としました。

 

<違法捜査だとする理由>

◎ 撮影時点で渡辺さんは容疑者でも、何でもない普通の一般人だった(ただ単に男性Aが良く遊びにいく友達の家って程度)のに、無断でプライバシーを侵害する度合いの高い場所を長期間撮影し続けたこと。

 

◎ 捜査は任意捜査で、令状の出ている強制捜査で行っていたわけではないこと。

 

◎ 事件立証の証拠集めとして目的を達成した後も、長期間撮影していたこと。

等が主に違法な捜査だとされる理由のようです。

 

 

<無罪とする理由>

◎ 違法な捜査によって証拠が集められたこと。

 

◎ 違法な捜査による証拠以外に証拠がないこと。

 

◎ 立証措置が取られていないこと。

(立証措置とは、物を裁判の証拠品として確約するための司法手続きです)

 

◎ 警察組織が今回のような違法捜査を違法だと認識しておらず、現在でも違法な捜査を行っており、将来の違法捜査を抑止する必要があること。

等が理由とされています。

 

 

5、個人的な見解

<違法捜査とする判断部分について>

 この捜査方法を認めてしまうと、誰の家も警察に勝手に撮影されることを認めることになります。

 

 この時点では渡辺被告は何の容疑もないわけですから、何もしていない貴方の家にも有り得ると言うことです。

 しかもプライバシー侵害の度合いが高い場所ですからね。

 これはちょっと嫌ですよね。

 

 下手をしたら何もしていない貴方の家が勝手に撮影されていて、トイレや風呂、リビングでの着替えも映り得るわけですからね。

 

 それでも

「警察の捜査なら仕方がない」

と言えますか?と言うことですね。

 

 裁判所は

「それは仕方がないとは言えないでしょう!」

と言うことで違法としました。

 妥当ですよね。

 

<無罪とする判決部分について>

「証拠品だ!」

と主張するために立証措置を取っていないのは論外です。

 

 カメラを設置し長期間放置して撮影したようですので、立証措置を省略したのでしょうが、交番の新人でもキチンとやる証拠集めの基本です。

 

「それを刑事がやらないでどうするんだ!」

って話です。

 

 だから

「警察は現時点で問題点を理解していない」

なんて厳しいことを公判の場で言われるんですよ。

 

 立証措置をしないでも証拠になるとしたら、警察は何でも出来てしまいます。

 究極を言えば、証拠品のでっち上げをし放題になると言うことです。

 何もしていない貴方でっち上げの証拠だけ犯罪者に仕立て上げることが出来得ると言うことです。

 

 「それはダメでしょう!」

と言うことで裁判所は認めない判決にしたんです。

 これも妥当ですよね。

 

 

6、最後に

 本判決に対して裁判官を批判する人がとても多かったのですが、この判決で批判すべきは裁判所・裁判官ではありません。

 

 批判すべき対象は、違法な捜査を、違法とも思わず、最低限やるべき手続きも踏まないで行っていた警察です。

 

 正直ヤフーニュース等のネット記事だけを見ているとその辺りのことを知らない人にはわかり難いです。

 私も一つの記事だけだったら良く相関図が理解できなかったと思います。

 

 結構重要な判決なんですから、記者さんにはもう少し分かりやすく書いて欲しいですね。

 

 職務質問に関する裁判例にも興味を持った貴方はこちらもどうぞ。

 

www.policefuta.work

 

 

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