元警察本部警察官が教えます!

元警察本部警察官の管理人が警察についてあれこれ書いています。他にも法律、裁判、福祉等についても少々!

警察と消防の仲が悪い理由はこれ!

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1、警察と消防の相性

 結論から言うと、組織としては特に仲が良いとも、悪いとも言えません。

 しかし、現場単位、地域単位では悪印象を持ち合っていることは多いです。

 

 その理由は恐らく、その組織としての目的の違いから、お互いの相性が悪いんだと思います。

 

 

<消防・救急の目的>

 消防や救急の目的は、火災や災害等から国民を守り、傷病者を適切に搬送することで公益を守ることです。

 

 

<警察の目的>

 警察の目的は、事故・犯罪の鎮圧や捜査等によって公益を守ることです。

 

 お互いに公益を守ることは同じなのですが、手段が違います。

 一つの現場に方法が違う者同士で、同時に対処に当たったら、どうなるでしょうか?

 どうしてもお互いに邪魔をし合うことは有り得ます。

 

 その方法の違いが往々として起きやすいために、仲が悪い場面が生じます。

 具体的なケースを例にもっと詳しく見て行きましょう。

 

 なお、私は警察経験しかないので、警察主観になりますので予めご了承下さい。

 

 

2、溺死現場

<消防の場合>

「人命第一!」

と言うことで、とにもかくにも救助を最優先に行動します。

 

 溺死現場と言いましたが、沈んでいる状態ではまだ亡くなっているかどうか100%の判断は出来ません。

 

 引き上げて見ないことには何とも言えません。

 もし、外から見ても明らかに亡くなっているとしても、警察よりも救助・引き上げ能力は高いので良心で警察を手伝ってくれることも多いです。

 

 溺死体を引き上げるのはとても大変なので、それを良心で助けてくれるなんて、一見警察が怒る理由なんてないように感じますよね?

 

 しかし、ここで方法の違いによるイザコザが起きるんです。

 

 

<警察の場合>

 警察は溺死体等、医師の管理の基にない変死体が出た場合、目線は救助ではなく捜査となります。

 

 まだ事件性があるか、ないかは分かりませんので、変死体を検視して判断します。

 そのため、検視が終わるまでは事件性があるものとして動きます。

 つまり、殺害した犯人がいる前提で行動するわけですね。

 

 さて、犯人を捕まえる捜査の上で最初に重要な事は何でしょうか?

 刑事ドラマ等が好きな人は分かると思います。

 

 そうです。

 現場保存です。

 

 現場を極力そのまま保存し、鑑識等適切なスキルを持った者が犯人に繋がる証拠を採取することがとても重要になります。

 

 

<優先順位>

 少し不快に感じる人もいるかもしれませんが、法的には死者に人権はありません。

 そのため、公益をより守ると言う目的のためには、変死体を蔑ろにしてでも生きている人を守ることの方が重要です。

 

 つまり、溺死体を早く引き上げることよりも、事件性の有無を判断し、事件性があれば早く犯人を捕まえる方が、生きている人の不安な気持ちを解消できるので、公益が高いわけです。

 

 ここで既に消防と警察とでは大きな違いが生じていますよね?

 

 消防は、兎にも角にも引き上げ・救助が最優先。

 警察は、捜査のために現場保存が最優先。

 

 どちらも公益を守ると言う同じ目的のハズですが、このように優先順位がズレるんですね。

 するとどうなるでしょうか?

 

 

<警察の意見・態度>

「消防!何やってんだ!何の配慮もしないでズカズカと踏み込んで現場を壊すな!邪魔すんじゃねぇ!」

となります。

 

 実際に刑事さんによってはこのように怒鳴り付けます。

 先ほども言いましたが、警察は目線が捜査になっています。

 

 犯罪現場で証拠を破壊しないように行動するスキルを持っていない消防が救助優先で踏み入ると、証拠保全と言う意味合いでは最悪の状態になります。

 

 最も犯人が証拠を残しているであろう場所の上を消防も動くので、もし殺人等の犯罪だった場合、消防のせいで犯人の証拠が失われると言っても過言ではありません。

 

 

<消防・救急の意見>

「引き上げて生存確認をしないと100%亡くなっているとは言い切れないだろう!」

「外形上明らかに亡くなっている場合、消防の仕事じゃないのに、警察のためにと思って引き上げる手伝いをしているのに、なんだその態度は!」

となります。

 

 この言い分もわかりますよね。

 救助最優先なのですからね。

 

 言っていませんでしたが、消防・救急は明らかに亡くなっている場合は救助ではなくなるので、本来はそのまま何もせずに警察に引き継ぎます。

 要は、死亡している場合は消防・救急の仕事じゃないんですね。

 

 それを良心で手伝っているのに、

「邪魔すんな!」

と怒鳴られるわけです。

 

 イラっとして当然ですよね。

 公益と言う目的では確かに警察の言い分の方が近いと思います。

 しかし、人としての心情的には消防の感情の方が理解できますよね。

 

 

<個人的な感想>

 一番イザコザが多い溺死現場を例にしましたが、このようなやり取りがシバシバ発生します。

 そのため、最初にも言った通り、組織としては特に仲が悪いと言うことはなくても、現場単位、地域単位では仲が悪い事が多いわけです。

 

 私的には、この現場単位のイザコザに関しては警察がもっと配慮をすべきかと思います。

 まず、既に消防が入って活動しているわけで、そこから退去させたところで大差ありません。

 

 それに、善意で手伝ってくれていることは分かっているのですから怒鳴る必要はないですよね。

「あとは警察がやります。事件性を見るのでここは通らないようにお願いしますね。」

で良いわけです。

 

 余談ですが、消防・救急が証拠保全スキルを身に付けて現場内を行動できたら最強だと思います。

 

 

3、緊急通報

<緊急通報>

 消防・救急も、警察も、どちらも緊急通報が出来ます。

 

 消防・救急は119番。

(緊急じゃないことや相談は#7119番

 

 警察は110番。

(緊急じゃないことや相談は#9110番

ですね。

 

 どちらも緊急時の専用回線になります。

 消防・救急なら、火事、意識消失レベルの急傷病人等。

 警察なら、犯人に追われている、殺されそう等。

 

 

<緊急じゃない通報>

 しかし、どちらも緊急じゃないことでの通報に悩まされています。

 消防・救急なら、

「酔って一人で帰れないから救急車で送って」

「料理を作っていたら指を切っちゃった」

等。

 

 警察なら、

「自動販売機のお釣りが出てこないんですけど」

「10年前にイジメられていたことを思い出してイライラします」

等。

 

 これらは実際にある通報内容です。

 そのせいで本当に緊急な通報が繋がらず、命を落とす人がいるかもしれないと思うと切なすぎますね。

 

 

<勘違いや回復>

 そんな中、通報時には本当に緊急だったけれど、勘違いだったり、急傷病人の状態が回復することもあります。

 

 消防・救急であれば、通報時は本当に意識を失っていたけれど、救急隊が到着するまでに回復し、意識を取り戻すことはあります。

 

 警察であれば、

「事件だ!」

と大慌てで通報したけれど、勘違いで事件じゃなかったなんてこともよくあります。

 

 

4、態度の違い

 このように、通報時点では緊急でも、到着時点では緊急じゃなかった場合。

 

 通報者に対して、消防・救急と警察とでは態度に大きな違いがあります。

 ただし、全てとは言いません。

 あくまでも私が経験したり、知っている範囲での傾向の話です。

 

 

<消防・救急の場合>

 高齢者施設等から通報することが多くあります。

 その際、通報時には医師や看護師の指示で救急要請します。

 

 しかし、消防・救急が到着するまでに介護士等の応急措置が功を奏して意識を取り戻すことが多くあります。

 

 すると救急隊の多くは

「こんなことで救急要請するなよ。」

「また○○施設かよ」

等の悪態を付きます。

 

 言葉にしなくても明らかに態度が変わります。

 

 そのような態度を救急隊から何度も、何度もされるので、医師から

「救急要請しましょう!」

と指示を受けても現場は、

「・・・でもこのくらいなら、もしかしたら」

と躊躇するようになります。

 

 命や後遺症の観点から、秒を争う緊急時のこの躊躇は致命的です。

 しかし、それをさせているのは紛れもなく、このようなケースでの救急隊の態度です。

 

 普段救急隊がそのような態度をするせいで通報に少しの時間躊躇したとします。

 そのため通報までに数分掛かり、到着までに回復しない状態の場合

「なんでもっと早く通報をしない!普段から下らないことで簡単に通報してくるくせに」

と言ってきます。

 

 何故即通報しないか?

 それは貴方達の普段からの態度が悪いせいです。

 貴方達の普段の態度が悪いせいで、躊躇するんです。

 

 

<警察の場合>

 普段キチンと施錠して出掛ける人が帰宅すると玄関が開いていた。

 本当は無施錠のまま出掛けていたけれど、

「そんなことは有り得ない!」

と思い込んでいるので、勘違いから110番通報。

 

 このようなケースは多くあります。

 

 警察が到着する前に勘違いに気付き、警察が到着すると通報者は

「すみません。勘違いでした。本当にすみません」

と謝ります。

 

 このようなケースで警察の多くはこう言います。

「良かった」

と。

 

 多くの通報者は

「え!?」

と言う顔をします。

 

 緊急の回線を勘違いで使ってしまい、警察に無駄足を踏ませてしまったと感じているので、怒られると思っているんですよね。

 

 しかし、そこで警察から言われる言葉が

「良かった」

なので、混乱と共に、何が良かったのか理解できないので止まってしまうんですよね。

 

 警察が何を思って良かったと言うのか?

 私なんかはこのように説明していました。

 

「それは勘違いで良かった。勘違いと言うことは、実際には被害に遭っていないと言うことですよね?犯罪に遭っていなくて良かったじゃないですか。」

 

 これで言われた相手がどのように感じていたのかまでは知りませんが、最低でも今後本当に緊急の事態のときに通報を躊躇することはなくなりますよね。

 

 どの程度の警察官が本心からこの言葉を言っているのかは知りません。

 しかし、表向きだけでもこの言葉を言う警察官は多いです。

 

 もしも、そこで

「勘違いとかふざけるな!キチンと確認してから通報しろ」

なんて言われたら怖くて、もう通報できませんよね。

 

 テレビなんかでも

「本当に緊急の時には躊躇せず通報して下さい。」

と発信する以上は、現場単位でこのような配慮は絶対的に必要だと思います。

 

 その面で救急の態度は最悪です。

 

 

5、最後に

 消防側の部分は険悪な現場を多く見て来て、

「自分が消防側だったら」

で書いています。

 

 そのため、何か険悪になる理由が別にある可能性もあります。

 

 更に、緊急通報が勘違い等だった場合の態度の違いは私の経験上の話なので、現場や地域ごとの違い、人による違いも当然あると思います。

 

 私個人的には、取り締まりや職質等でしか関わっていない人にとって

【警察は悪、消防・救急は頼りになる】

 

 このような傾向にあるようですが、緊急通報等の緊急時の態度は警察の方が優しく、後のことも考えていると思います。

 

 しかし、多くの人は緊急通報自体を経験することがほとんどないでしょうから、この印象の違いは仕方がないことなのかもしれませんね。

 

 

 

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