元警察本部警察官が教えます!

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警察官職務執行法は強制権限についての法律じゃないと不自然なことの説明

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1、職務質問は強制権限である

 警察官職務執行法(以下:警職法)に規定されている警察官の権限として有名なのは職務質問(以下:職質)です。

 そのため、職質の法的根拠として警職法はセットで出てきますよね。

 

 私はこの警職法は強制権限を行使するために作られた個別法と言う種類の法律だと考えています。

 そのため、その警職法に記載されている職質も強制権限の一つだと考えています。

 

 この詳細に関しては

 

www.policefuta.work

 を併せてお読みください。

 

 

2、職質は強制権限なの?

 そこで、

「それは職質は強制権限と言う考えが前提で考えているから、警職法が強制権限を定めた法律との解釈になっているだけでは?」

 

「職質が任意権限と言う前提で考えたら、警職法は強制権限を定めた法律じゃないですよね?」

との意見を受けました。

 

 要は意見の相違が起きたわけですね。

 少し争点を分かりやすくするためにまとめると、

 

<私の解釈>

◎ 警職法は即時強制権限を行使するために作られた法律

◎ 強制権限を行使するための法律に載っている権限は強制権限

です。

 

 

<頂いた意見>

◎、職質は任意権限と仮定して考えると私の解釈には矛盾が起きる

◎、矛盾が起きるから、警職法が強制権限を定めた法律とは限らない

◎、警職法が強制権限かどうかは、事案ごとの裁判案件

です。

 

 しかし、頂いた意見で解釈を進め、

「警職法は強制権限を定めた法律ではない」

と解釈してしまうと社会は大変なことになってしまうんです。

 

 今回はその説明をします。

 www.policefuta.work

 

この記事では、この部分の詳細は記載していないので。

 

 

3、警察官職務執行法

 警察官職務執行法とは、警察官の権限を定めた法律です。

「これらの権限が強制か?、任意か?」

の意見の相違なので、権限について記載されている法律であることは同じ解釈となっています。

 

 ネットや世間では警職法を考える場合、職務質問にしかスポットが当たらないのですが、実は警職法は全8条、6種類の権限について定めています。

 

 警職法が任意権限を定めた法律か?強制権限を定めた法律か?を考える場合、職務質問以外の権限についても考える必要がありますよね。

 

 職質以外の権限も任意だと解釈できるなら警職法は任意権限を定めた法律と解釈して良いと思います。

 逆に、他の権限を任意権限と解釈すると違和感や矛盾等が生じたら、警職法は強制権限を定めた法律と解釈して良いと思います。

 

 それでは職質以外の権限について一個ずつ見ていきましょう!

 

 なお、警職法第一条と第八条は目的等を言っており、権限そのものについての条文ではありませんので、省略します。

 更に、全部について説明していくと内容が似たり寄ったりなまま、文章量だけが凄い量になり間延びしてしまうので、代表的な権限だけにします。

 

 

4、警察官職務執行法第三条(保護)

 簡単に説明すると、保護できるのは

◎、自傷他害の恐れがある泥酔者、精神錯乱者

◎、迷子

◎、一人で居る病人、負傷者

等です。

 

 迷子や病人、負傷者等に関しては、場合によっては本人が保護を拒否すれば強制はできないとされています。

 この部分も職質の任意部分を言っている条文と似ていますね。

「○○については強制できない」

ですからね。

 

 では、自傷他害のある泥酔者や精神錯乱者も拒否されたら保護できないのでしょうか?

 もしそう解釈するなら、とても大きな不具合が生じ得ます。

 難しい言葉で言うなら、公益を害し得ます。

 

<自傷他害の恐れ>

 警察では良く使う言葉ですが、読んで字の如くです。

 自分を傷付けたり、他人を傷付けたりする恐れがあると言うことです。

 

 泥酔者の自傷としては、

◎、車道で寝てしまう

◎、転倒して怪我をしてしまう

等の恐れですね。

 

 泥酔者の他害

◎、見知らぬ人に喧嘩を吹っ掛ける

◎、お店の看板を蹴り壊す

等が多いですね。

 

 精神錯乱者の自傷では

◎、リストカット

◎、車道に飛び出す

等が多いですね。

 私も止めるのは無理な距離で、目の前で手首を切られてしまった経験があります。

 それ以上切らせないように手を抑えつけつつ(=強制行為)、病院に連れて行きました。

 

 精神錯乱者の他害では、

◎、大声を張り上げながら暴れる

が多いですね。

 

 警職法は、これらの人を保護出来るとしているわけです。

 その保護の方法が私は強制的に出来ると解釈しているわけですね。

 

 大声を張り上げ暴れており、通行人を威嚇しており、今にも殴り倒しそうな状況で私の解釈と頂いた意見とで見て行きましょう。

 

<私の解釈(強制権限)>

 他人に危害を加える恐れがあるだけで行使できるので、暴れていて危ないと思えれば、強制的に取り押さえて保護出来ます。

 

 つまり、被害者が出る前に取り押さえて病院へ連れて行ったり、保護房に閉じ込めておくことが出来ると言うことですね。

 

 私の解釈である即時強制権限は手続きを踏んでいる暇がない状況で行使出来る強制権限ですので、令状も不要で警察官の判断で即時に行使できるタイプの強制権限です。

 

 

<頂いた意見(任意権限)>

 では頂いた意見の、警職法が任意権限だと解釈する場合どうなるか?

 目の前で誰かが殴り倒されそうなので、暴れている人に対して

「危ないよ!ダメだよ!そんなことしていちゃ」

と説得します。

 

 任意権限ですので、暴れている人はこの説得に応じる義務はありません。

つまり、

「それって任意だろ?」

と拒否できるわけですね。

 

 他人を実際に殴り倒さない限り警察は説得以外出来ません。

 つまり被害者が出てから初めて、刑事訴訟法の権限に移行し、現行犯逮捕できるわけですね。

 

 これではとても不自然だと思いませんか?

 何のための権限なんでしょうね?

 

 

5、警職法第六条(立入)

 他人の生命身体、財産等に危害が及ぶ恐れが切迫している時に、救助や被害予防のために他人の土地・建物等に無断で立ち入ることが出来ます。

 

 代表的な例としては、人の家から

「助けて」

との叫び声が聞こえた場合です。 

 

 なお、ジャレたり、ふざけている叫びではなく、普通に考えて犯罪に遭いそうな状況での叫びとします。

 

<私の解釈(強制権限)>

 家人に無断でガラスを割って家に入り、助けに入れます。

 

◎、人の家のガラスを勝手に割る行為。

◎、人の家に無断で、勝手に入る行為。

 これらは犯罪ですが、この場合やむを得ないですよね?

 

 実際に裁判でもこれは人命を守るためにやむを得ないとしていますしね。

 

 

<頂いた意見(任意権限)>

 ではこの警職法に規定されているこの立入も任意だとしたらどうなるでしょうか?

 

 他人の静穏な住環境と言う憲法で定められている人権を侵害することになるため、色々と手続きが必要です。

 

◎、家人を調べる

◎、家人と連絡を取り、状況を説明する

◎、家人が到着するのを待つ

◎、家人を説得して家に入る許可を貰う

◎、家人が鍵を開け、招き入れてくれたら入る

◎、家人が案内してくれた部屋・場所にだけ入れる

 概ねこんな感じになります。

 

 さて、これで助けを求めていた人は助かるでしょうか?

 

 更に、もしも家の中で襲われ、助けを求めている人が家人だった場合はどうでしょうか?

 最初の段階の連絡を取るって部分から挫折し得ます。

 

 これも職質と同じように、

「みだりに行ってはいけない」

と規制する文言は存在していますが、この立入も任意とすると物凄く違和感がありませんか?

 

「私の家で叫び声が聞こえ、人が殺されるかもしれないんですか?でも、それって任意ですよね?断ります。」

 これが通用する社会が自然なのですか?

 

 

6、警職法は任意?強制?

 ここまで見てきたように、

【警職法は強制権限を定めた法律である】

と解釈しないと色々と不自然で、違和感のある現象が起きます。

 

 それとも、警察官は、明らかに人が怪我させられそうな状況でも、実際に怪我させられるまで見ていないといけない方が自然ですか?

 

 犯罪被害に遭いそうな助けを聞いても、家人から家の中に招き入れられない限り待っているだけで動けない警察官の方が自然ですか?

 

「警察官職務執行法は任意権限を規定した法律だ」

と解釈するとこれらが自然だと言っているのと同じ意味です。

 

 私はそのような急迫した場合に動ける権限を規定した法律と解釈する方が自然だと思いますが、記事を読んでいる方々はいかがでしょうか?

 

 そして、強制権限について規定している法律の中に任意権限をポツンと一個だけ入れる意味はありません。

 邪魔だったり、混乱を招くだけで、何のメリットもありません。

 

 つまり、警職法が強制権限について定めている法律だとするなら、警職法に規定されている職務質問も強制権限の一つだと解釈しないと矛盾が生じます。

 

 それぞれの権限の説明でも少し書いているように、どの強制権限にも

「○○については強制してはいけない。」

等の規制する文言は存在しています。

 それは強制権限の濫用や踰越(ゆえつ)を防ぐためですね。

 

 その権限そのものが任意だと言いたいわけではありません。

 何故か職質だけがその部分を根拠に

「任意権限だ!」

と言われてしまうんですね。

 

 それこそ違和感があるとは思いませんか?

 

 

7、最後に

 いかがでしたか?

 難しい話になりましたが、私は思うんです。

 

 ネットに蔓延している職質の断り方・対策方法で

「職質は任意ですよね?」

と安易に断る方法。

 

 これって、法知識での対立、宣戦布告の意思表示だと思います。

 

 だって、職質は任意権限か?強制権限か?と言う部分だけでも、このような考察が存在しているわけですから、この

「職質は任意ですよね?」

の裏には本記事のような内容も全部隠れているわけです。

 

 まだ本記事の内容も薄っぺらい表面部分ですが、恐らく薄っぺらい表面部分ですら

「何か難しい!疲れた」

と思う人は多いはずです。

 

 それらの深い部分も含めて

「知識勝負しようぜ!やってやるよ」

と言う意味が

「職質は任意ですよね?」

と言う言葉に凝縮されているわけです。

 

 言っている方はそこまでのことと思っていなくても、権利の争いをするということは、そう言うことを意味します。

 

 法的に自分で勉強をする意思はありますか?

 それがないなら安易な情報は信じないことをオススメします。

 

 ましてや

「職質は任意ですよね?」

なんて恐ろしい言葉を発しない方が良いと思います。

 

 あくまでも全部、私の解釈の話ですけどね!

 法学とは、暗記の学問ではなく、解釈の学問ですからね!

 

 

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